2020年03月12日
【提 言】日本野球機構・日本プロサッカーリーグにおける新型コロナウイルス感染症対策 以下、3月12日、一般社団法人日本野球機構(NPB)と公益社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)が設立した「新型コロナウイルス対策連絡会議」で専門家から受けた提言を全文まとめております。 https://www.jleague.jp/news/article/16825/ 提 言 日本野球機構・日本プロサッカーリーグにおける 新型コロナウイルス感染症対策 Ⅰ.基本方針 新型コロナウイルス感染症対策は、個人防衛、集団防衛、社会防衛の3つの見地から考える必要があります。何よりも重要なのは、選手・コーチ・監督・スタッフが、発熱・咳・倦怠感などの症状を認めたら休む勇気を持つこと、観客も観戦にあたっては発熱・咳・倦怠感などの症状を認めた場合にはスタジアムに行かないという文化を醸成することです。 日本野球機構および日本プロサッカーリーグは、“選手・コーチ・監督・スタッフを守る、観客を守る、選手・コーチ・監督・スタッフ、観客が感染クラスターになることを防ぐ、日本のスポーツ文化を守る”という視点から、新型コロナウイルス感染症に対する対策・対応を考えていくことが重要であると思われます。 Ⅱ.対策を考える上での重要事項 1.新型コロナウイルス感染症の感染経路について 新型コロナウイルスの感染は以下の2つの経路で生じることが知られています。 (1)飛沫感染 (咳・くしゃみ、おしゃべりによる感染) 通常の風邪やインフルエンザのように、咳やくしゃみによりウイルスが排出され、それを吸入することにより感染が生じます。特に新型コロナウイルス感染症では、濃厚接触状態(手が届く範囲)における“おしゃべり”でも感染が広がる可能性があることが重要です。 (2)接触感染 (手で触れることによる感染) 咳やくしゃみ、おしゃべりで環境に排出されたウイルスが、手指などを介して粘膜(口、鼻、眼など)から侵入することにより感染が成立します。咳やくしゃみ、おしゃべりで排出されたウイルスは、条件次第では、環境中で数日にわたって生き続けます。 2.新型コロナウイルスの感染を促進する“3要因” 新型コロナウイルスの感染伝播が起こりやすい原因として以下の3要因が重要となります。 (1)多くの方が集まる状況での濃厚接触 (手が届く範囲での交流) 濃厚接触の明確な定義はありませんが、通常、“手の届く範囲での交流”ということで理解されています。立食パーティーや対面での面談・食事なども濃厚接触になり、多数の人が多く集まる環境において感染のリスクが高まります。ただし、数分間、あるいはすれ違い程度の交流は、通常は濃厚接触とはなりません。 (2)近距離での咳・くしゃみ、おしゃべり、発声 咳やくしゃみに加えて、濃厚接触状態における“おしゃべりや発声”でも感染が広がる可能性が指摘されています。この点は、インフルエンザなどとは異なる特徴です。 (3)換気の悪い密閉空間 咳やくしゃみ、おしゃべりなどにより排出された大きな粒子(しぶき)はすぐに地面に落ちますが、小さな粒子は短時間の間、空気中を浮遊することが考えられます。空気がよどみやすい空間、閉鎖された環境では、その粒子を吸い込んで感染する危険が高まります。 3.感染のリスクが高まる環境・状況 これまでに感染伝播が報告された代表的な環境・状況として以下があります。いずれも上記の3要因のいずれか、あるいは複数が関連しています。それ以外にも上記の3要因が重なる環境・状況では感染のリスクが高まると考えておかなければなりません。 ・ライブハウス ・屋形船 ・長距離バス・タクシー ・スポーツジム ・展示会 上記に加えて、不特定多数の方が参加・観客となる環境:スタジアムなどマスギャザリングでは屋内・屋外で感染症のリスクが高まると考えられます。 なお、ドーム型スタジアムは、条例で一定基準以上の外気供給能力が義務付けられるなどしており、通常の給気能力であっても屋外に近い環境が確保できるとされていることから、感染症リスクの対策を検討する場合、屋外のスタジアムと同一の対応を実施するとともに、給気能力のアップなど換気を万全に保つ措置も講じるべきだと考えます。 4.新型コロナウイルス感染症に対する一般的な予防方法 以下の対応を取ることが新型コロナウイルス感染症の伝播を防ぐ上での基本になります。 (1)人ごみを避ける 不特定多数の人が集まる場所(特に換気の悪い場所)、体が触れ合う状況において感染のリスクが高まります。 (2)手洗いの励行 人が触れるものは全てウイルスで汚染されていると考えて対応する必要があります。 (3)口・鼻・目に不用意に触れない 手についたウイルスが粘膜を通して感染を起こします。 (4)規則正しい生活とバランスの取れた食事 感染対策、全ての健康の基本となります。 Ⅲ.選手・関係者への対応 ※選手・関係者とは、選手、監督・コーチ、マネージャー、トレーナーや練習補助員らとその家族などのチーム関係者に加え、スタジアムの職員、各球団・各クラブの幹部や職員、さらにはチームに帯同する報道関係者やその家族も含みます。 1.野球選手・サッカー選手に特徴的な感染リスク要因 ・人ごみの中でのファンサービス ・過酷なトレーニングと緊張 ・食事、体重、スケジュールなどの管理 ・集団での移動 (飛行機、バスなど) 2.選手および組織に求められる感染予防対策 選手本人だけでなく、選手と頻繁に接する方々も同様の対応が必要です。特に、関係者や家族を含めた対策の徹底が重要となります。 (1)毎日の健康チェックと行動記録 ・体温測定: 起床直後・就寝前など決まった時間での体温記録 ・問診表チェック: 倦怠感、咳、咽頭痛、食欲低下の有無、睡眠時間など ・行動記録:食事や出向いた場所・同行者などの記録 (2)手指衛生の励行 ・消毒用アルコール剤による手指衛生の励行が原則です。ただし、野球の投手などでは、アルコールによりマメなど指先の状態に影響が大きいと判断される場合には、流水と石鹸による手洗いでも十分な予防効果が期待できます(手指消毒、手洗いのやり方は所属球団、所属クラブが指導) (3)出来るだけ人ごみを避ける ・人ごみに入る場合にはマスク着用 (4)施設の空調・換気状態の把握と可能な対策 ・スタジアムごとの空調・換気の状況の把握と給気能力の増強や加湿 ・空気のよどみを最小限とするよう換気・空調システムの見直し (5)ロッカー室・シャワー室、ベンチなどでの濃厚接触の回避 ・ロッカー室・シャワー室等の時間差利用、可能な限り1.5?2m以上のヒト-ヒト間隔がとれるよう配慮するなどの空間遮断など ・感染リスクを下げるため、チームを守るために、ポジションが同じ選手が可能な限り行動を共にしないなどの工夫は有効となる可能性がある (6)ロッカー室・シャワー室、ベンチ、トイレなどにおける環境消毒とタオルなどのリネン管理 の徹底 ・高頻度接触面に対して次亜塩素酸ナトリウム等を用いて環境消毒を行う ・タオルなどのリネンの共用は避ける。トイレなどの手ふきはペーパータオルを使用する ・チーム専用トイレ個室に便座クリーナーまたはアルコール消毒スプレーを配備。利用者には毎回の使用を呼びかけ (7)選手、チーム関係者、家族に対する教育・啓発と意識改革 ・バスなどでの移動時の換気、空間遮断による濃厚接触の回避 ・マスクを使用する際の付け方、外し方、交換のタイミング、手指衛生を学ぶ(指導する) ・チーム関係者以外の方への協力の要請 (運転手、報道陣など) ・人ごみに入るなど濃厚接触が生じた場合の記録 (主なものを報告、あるいは日記) ・選手を含めたスタッフの行動記録の記載 (8)リーグ全体での情報共有体制 ・体調不良者に関する情報共有による危機察知体制の構築 (9)チームドクターおよびチーム連携医療機関の選定と連携体制の確認 ・疑い症例が出た場合の対応マニュアルの準備(各球団・各クラブが策定した対応マニュアルは、地域ごとに専門家チーム・アドバイザーがチェック) ・指定医療機関との連携体制の確認 ・PCR検査などの迅速な対応の準備 3.選手および家族も含めたチーム関係者に疑い例が出た場合の対応 *検温で37.5℃以上の場合は必ず報告することとする *発熱:37.5℃以上が2日間以上持続した場合は、チームから離れ、チームドクターと相談の上、下記のような対応を行う。 (1)チームドクターに報告 ・チームドクターから各地域の専門家チーム・アドバイザー、連携医療機関への連絡 (2)各地域の専門家チーム・アドバイザーのアドバイスにもとづく濃厚接触者の洗い出し ・濃厚接触者の抽出および集団発生に対するリスク管理 (3)PCR検査および医療機関受診対象者の確認 ・健康チェック表、自覚症状を確認の上、PCR検査検体の採取 (チームドクター、専門家チーム・アドバイザーなど) (4)マスコミ対応 ・各球団・各クラブの関係者およびチームドクター、専門家チーム・アドバイザーによる記者会見などへの対応 (5)選手およびスタッフのPCR検査の結果、陽性反応が出た場合の補償の見直し ・感染に関連する体調異常を申告しやすくするためのルール作りとルールの確認 4.選手および家族も含めたチーム関係者にPCR検査の結果、陽性反応が出た場合の対応 (1)チームドクター、専門家チーム・アドバイザーに相談する ・濃厚接触者の抽出および集団発生に対するリスク管理 (2)医療機関受診の対象者の確認 ・健康チェック表、自覚症状を確認の上、医療機関受診対象者の確認 (チームドクター、専門家チーム・アドバイザーなど) (3)日本野球機構・日本プロサッカーリーグと今後の方針を相談 (4)陽性反応だった本人は入院もしくは自宅療養。濃厚接触者も自宅待機 ・その他の選手やチーム関係者は原則、チームの動きに従い、チームは予定どおりに試合・練習をする。チーム全体の活動はこの時点では停止しないが、検温等の健康チェックをより厳正に実施する (5)マスコミ対応 ・球団、クラブ、機構・リーグとして記者会見などへの対応 5.選手およびチーム関係者以外の関係者から疑い例、陽性判定が出た場合の対応 (1)各地域の専門家チーム・アドバイザーのアドバイスに基づく濃厚接触者の洗い出し ・行政との連絡調整も検討 (2)チームドクター、専門家チーム・アドバイザーによる濃厚接触者の抽出および集団発生に対するリスク管理 Ⅳ.観客の皆様への対応 1.野球・サッカー観戦の観客に生じる感染リスク ・不特定多数の集団が集まるマスギャザリング ・人込みにおける不特定多数との遭遇・接触 ・試合観戦中の濃厚接触状態 2.野球・サッカー観戦の観客に対する感染予防策 ・発熱、咳、倦怠感、咽頭痛などがみられる場合には観戦をご遠慮いただく(心臓、肺などに基礎疾患がある場合も同様) 自分を守るだけでなく、多くの仲間、選手を守ることの理解の徹底 ・流行国(外務省から渡航中止勧告が出ている「レベル3」地域=たとえば中国湖北省=)から帰国したメディア関係者らの立ち入り制限 ・入場時の濃厚接触を減らすための工夫 (ゾーニングなど) 開場時間の繰り上げと、入場ゲート手前の新たな待機ゾーンの設置による入場時の混雑緩和。券種に基づいた規制退場による退場ゲートの混雑解消など ・サーモメーター等を利用したスタジアム入場時の体温チェック(37.5℃以上)(平常時の体温が低い方は平温と比較して1℃以上の上昇を認めた方は入場をご遠慮いただく) ・スタジアム内でのマスク着用の呼びかけ ・観戦時の濃厚接触を減らす工夫 ・スタジアムの回遊型コンコースの移動制限 ・応援歌合唱、鳴り物使用の応援スタイルの変更と観客同士のハイタッチ等接触の禁止 [応援スタイルのリスク評価例] ▽感染リスク高 ジェット風船応援➡×(飛沫感染リスク) 肩組み、飛び跳ねなど集団での動きの伴う応援➡×(接触感染リスク) 立ったり座ったりを繰り返す集団での動きの伴う応援➡×(接触感染リスク) 指笛の応援➡×(飛沫感染リスク) トランペット・ホイッスル等の鳴り物応援➡×(飛沫感染リスク) メガホンを打ち鳴らしながらの声援(自然に歓声が大きくなる)➡×(飛沫感染リスク) ビッグフラッグ応援(旗の下で多数が密集状態で旗を動かす)➡×(接触感染リスク) ビッグプレー、ファインプレー等での観客のハイタッチ➡×(接触感染リスク) 両手をメガホン代わりにした大声での声援、応援➡×(飛沫感染リスク) フラッグ応援(多数が新聞紙大の手旗を振る)➡×(接触感染リスク) ▽感染リスク中 応援団による声の指揮による歌唱+拍手応援?▲(自席で手をたたき歌う程度) 応援団の太鼓リードによる声援、拍手?▲ プレーの度の拍手や通常の声援(両手をメガホン代わりに使わない)?▲ ▽感染リスク要検討 サメダンス応援(両手の手のひらを上下に合わせる) 応援タオルを回す、応援タオルを横に広げて左右に振る ・スタジアム内でのアルコール飲料販売の抑制 たとえば、観客席でのビール販売を全面的にやめて売店での販売に限定する、ビールなどアルコール飲料の購入量そのものを制限する、観客席でビールを売る販売員の数を削減する――といった措置によって、長時間飲酒を続ける観客を減らす案を検討すべき。当面の間、アルコール販売の取りやめを選択する案もある ・ドーム型スタジアムにおける空調管理 (空調の出力アップなど空気のよどみを減らす対策・工夫)および、屋外スタジアムにおけるコンコースなど屋内スペースの適切な換気 ・手指消毒剤の設置 入場・退場時の手指消毒の推奨など ・流行時には無観客試合、試合延期も含めて専門家チーム・アドバイザーと検討 ・ファンから手渡されたペン、色紙、ボールなどでのサインを行うファンサービス、ハイタッチなどを行わない 3.野球・サッカー観戦の観客から感染者が出た場合の対応 (1)観客に感染例が出た場合に備えて周囲に座っていた方を特定できるような工夫 ・感染者座席の周辺に座っていた入場者を特定するための手段の確保 [指定席・年間シート席] 入場者がどの席に座っていたか自分で確認できるよう半券の保管を呼びかける 入場券の購入者が正当な手段で第三者に譲渡した場合を想定して、各球団・各クラブは譲渡先が把握できるような管理体制を構築する [自由席・立ち見席] 自由席・立ち見席のゾーンを細分化してプラカードなどで提示し、観客に自席をスマートフォン等のカメラで記録するよう係員が呼びかける (2) 感染者座席の公表 ・各球団、各クラブは感染者の座席をHP等で迅速に公表する ・各球団、各クラブは周辺にいた観客の特定を急ぎ、注意喚起する (3)専門家チーム・アドバイザーによる対応協議 ・集団発生に対するリスク管理を検討 (4)マスコミ対応 ・観戦による感染のリスク評価、他の感染例の可能性などに関して専門家チーム・アドバイザーが対応 Ⅴ.応援団、サポーターとの連携・協力 プロ野球やJリーグには応援団、サポーター、応援サークルといったチームと選手を鼓舞し、スタジアムを盛り上げる方々が数多くいらっしゃり、チームの遠征試合に合わせて各地域を移動する方々も少なくありません。その多くは、様々な地域の多数のファンとともに応援をともにすることから、感染予防の意識と行動を、選手や球団、クラブと同じレベルで共有することがとても大切になります。プロ野球やJリーグのチームに帯同して取材する報道陣、いわゆる番記者も同様です。 つまり、選手やチーム、さらにはスタジアムの観客を新型コロナウイルスの感染から守るには、応援団、サポーター、応援サークル、報道陣などの理解と協力、さらには球団やクラブとの連携が不可欠であり、彼らの協力が大勢の観客に集まっていただいた試合の開催を成功させるカギになると思われます。自由席や立見席のゾーンを細分化して、観客の座席や観戦位置を特定しやすくする取り組みなどに、彼らの協力を求めるという案も検討対象になります。 そのためにはまず、本意見書の「Ⅲ.選手・関係者への対応」を、応援団、サポーター、応援サークル、報道陣などにも説明し、意識の共有を図ることが各球団、各クラブの重要な責務になります。 Ⅵ.観客の入場を前提とした試合開催について 観客の入場を前提としたプロ野球、Jリーグの公式戦を開催するには、1日あたりの感染者の増加数や、感染経路が特定できない感染者の実数、そして感染者1人が何人に感染させたかを測る指標などのデータが安定することが大変重要であると考えています。 さらに各球団、各クラブの対応や対策の現状を見た場合、選手、監督・コーチ、スタッフ、家族への啓発や、サーモメーター・消毒薬・マスクなどの資機材の確保、スタジアムの環境整備に、あと数週間程度の時間が必要ではないかと考えます。 医学専門家としては、その間に各種のデータや指標が安定することと、全スタジアムに感染対策のために必要な資機材が確保され、環境清掃などの準備が整うことを前提に、公式戦開催の適否を判断されることが望ましいと考えています。 以上の点をご考慮いただき、選手、観客、そして日本の野球・サッカー文化を守る決断と実行をお願い申し上げます。 2020年3月12日 日本野球機構・日本プロサッカーリーグ連絡会議 専門家チーム・地域アドバイザー 賀来 満夫(東北医科薬科大学) 三鴨 廣繁(愛知医科大学) 舘田 一博(東邦大学) 髙橋 聡(札幌医科大学) 國島 広之(聖マリアンナ医科大学) 掛屋 弘(大阪市立大学) 大毛 宏喜(広島大学) 泉川 公一(長崎大学)
リンク集
月別アーカイブ
検索